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母は6人兄弟姉妹の、下に4人の弟、一番末っ子に妹が連なる長女です。

そして母が84歳になった現在、この6人のうち生き延びているのは長子の母と末っ子の叔母の二人だけ。(やはり女のほうが断然長命なのだなぁ)

4人の弟たちは40代であったり50代であったり60代であったり、一番長生きをした3番目の弟も一昨年70歳で亡くなっている。

母の弟妹達は、一言で言うと波乱万丈さんたちばかりだった。

商売に大成功して大もうけして、その後はじけてしまった弟もいる。
性格が凶暴(?)であっちこっちで喧嘩騒ぎを起こしてはその都度親代わりの母と父とが後始末に奔走させられたという弟もいる。

大きな借金をこしらえて行方知れずになり、何十年もして消息が知れたときがお葬式の案内だったという4番目の弟は死に目も気の毒なものだったと聞く。

そして、母のすぐ下の弟はいわゆる帰国船で北朝鮮に渡り、多分最も悲惨な死に方をしたのではないだろうか。(永く安否も知れなかったのだけれど、どうも最後は収容所送りとなって亡くなったらしいから)


そういう波乱万丈な人たちだけれど、人生の中には穏やかな時間も多少はあった。

それは私の子ども時代の記憶と重なる時期でもあり、昭和40年前後の数年間のこと。
兄弟の行き来も頻繁で、私には従姉妹たちと遊んだ記憶も楽しくなつかしい。

その記憶の、ハイライト的、象徴的シーンが毎年母の弟妹家族がうち揃い団体で出かけた敦賀湾内の海水浴旅行なのだった。

一日は湾内の無人島で過ごす。
「水島」という名前の島だったと記憶していたけれど子ども時代の耳だけの記憶で、沖合いにしょぼく浮かんでいるその島には本当には名前などなくて、父や叔父たちが便宜上「みずしま」とかなんとか呼んでいただけかもしれない、そんな気もしていた。


だから、夕べ読んだ小説の中に「水島」の名前を発見したとき自分でもびっくりするぐらい心が波立ったのだ。
この「水島」はあの「みずしま」のことや~ん。


その小説の最初の三行目、「敦賀半島の西側に500メートルにわたって広がる明るいベージュの砂浜は・・・」とあるのを読んだときに既に、それは私の知っている風景だな、と思ったのは思ったの。

ヤドカリが自分の身にあった貝殻にもぐりこむように、ここが自分の住処と決めて敦賀に住み始めた勝男が、春の終わりに「ファンタジー」に出会う。
ファンタジーに「おまえの運命の女だ」と教えられた「かりん」。
梅雨が明ける頃「かりん」に再会し、その時女が言うのだ。
「水島に行きたくて岐阜から来たんです」って。

「水島」ってそんなに有名な島なんだろうか。
あのころ、その無人島は私たち一族の貸し切り状態だったんだけど。


遠浅の砂浜が島を囲んでいて、その水はどこまでも透明。

「珊瑚礁の海の鮮やかさとは違う、砂地の海の、まろやかな深みのある色調だった。」

と形容してある。

その昔、水島の遠浅の、透明な海水に体を半分浸しながら、母や叔母達が「沖縄の海もこんなんかなぁ。沖縄まで行かんでもここで十分やな」って話していたのだ。

子ども心に「沖縄の海」に負けないのか、って思ったものだったが、質的に比較できないものらしいことをこの年になって知ることになった。

水島は無人島で、だから食糧は全部持ち込んでいた。
それは民宿で作ってもらったおにぎり。

まだ若かった父や叔父達は素潜りでサザエやあわびをバケツにいっぱい獲って、海岸でバーベキューをした。

45年近くも昔の話になる。

そうか、あの当時の母はまだ40代だったのかと気がついたり。


小説の中の「水島」の描写にドキドキしながら、それはきっとその風景の中に蘇る若き叔父や父や母や叔母や従姉妹たちの姿を嗅ぎ付けたいからなんだなぁって気がつき始めていた。

まだ赤ん坊の従弟がいたり、新婚の叔母がいたり。その叔母は夫になったばかりの人を一族のそんな旅行に連れてきた年もあった。その叔母の夫だった人も今はもう亡くなっている。
羽振りの良かった叔父一家だけが敦賀市内のホテルに宿泊し、それでもやはり海岸でのサザエのバーベキューには参加したがり、別の叔父といざこざが起こりそうになったり。

そして、義理の弟たちに「兄さん」と慕われている父もまだ40代で、父は本当に、この問題の多い義理の弟たちの面倒をよく見た人だった。
その後いろいろ揉め事の多い弟たちの尻拭いをさせられながら、血のつながっている母がもう見捨てるようなことを言っても父は最大限義弟たちの面倒を見た人だった。

あの数年間の、兄弟仲良く海水浴旅行に出かけていた時代のことを、父もまたその後の人生でなつかしく、ほろ苦く思い出すことも何度かあったのではないだろうか、と私は最後にはやはり父のことを思ってしまう。

今年は父の13回忌だった。
その集いにはもうその義弟たちの誰一人来れなくなってしまっていた。



夕べ、就寝前の読書に思わず昂奮して、50数ページまで読み進んでしまい、勝男とファンタジーと、かりんではない勝男のかつての同僚片桐が物語に加わって、3人はこれからに新潟目指して、片桐のアルファロメオでドライブ旅行に出かけることと相成ったようだ。

水島の描写はここまでか。

と思って本を閉じ目をつぶってもしばらく眠りがやってこないくらい心が波立っていた。

明日はこのこと日記に書こうって思ったわけです。
久し振りに心が波立ったなぁ、なんて夜更けの雨音を聞きながら。









注:水島が出てくる小説は、絲山秋子の「海の仙人」です。

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