7年も前になるのだけれど、山田太一さんの講演会で、講演後に聴衆の質問に先生が答えてくださるという時間が設けられていて、だれぞの質問に答えられての流れの中で、「魅力的な老人の俳優さんが少ない。だから私は緒形さんにお会いするたびに『早くおじいさんになってください』とお願いしてるんですよ」と笑いながらおっしゃったことを覚えている。7年前だから緒形拳は64歳だったのだろうか。先生は67歳かな。
山田さんの中には魅力的なおじいさんの姿の緒形拳に託したい老人のドラマがおありなんだろうとそのとき私は勝手に想像した。いつの日か魅力的な老人を緒形拳が演じ、それを堪能できる日が来ることを確信していた。
ここ数年はご自分の書く気力と緒形拳の加齢の塩梅とを換算して、焦りにも似たお気持ちがあったのではないだろうかなどと、僭越ながら思いを馳せたりしていた。
2年ほど前に60代後半の老人の孤独を描いたドラマが緒形拳主演で作られはしたけれど、多分先生は、まだまだこういうんではないんだな、と思われていたのではないかと私は思っている。そのドラマ自体ちょっと残念な出来だったし。
先日三國連太郎が新作映画の宣伝のためだろう、ワイドショーに姿を見せていた。
85歳、まだまだ美しく俳優としての気力も十分お持ちのような姿だった。
私は、三國連太郎もかなり好きなのであるが、85歳の三國連太郎を見て、改めて思ったのは85歳の緒形拳を永遠に私たちは見られないということへの残念さだった。
神様っていないんだな、と思うね。
何で緒形拳を持って行っちゃうんだ。もっと他に持っていってくれちゃっていい輩はいるだろうに(特に永田町あたりには)。
まったくもって緒形拳の死に関しては私ははらわたが煮えくり返っちゃうという思いに襲われてしまう。
まったくもったいない。もったいなくて腹が立つ。
そんな思いで遺作となった「風のガーデン」を見ている。
おもしろいんだけどさ、私はやっぱり倉本聰って本質的に好きになれないんだなと思ってしまう。
この人は決定的に山田太一とは違うということに改めて気がついた。
山田太一なら絶対出てこない台詞を緒形拳が口にする。
遺作となったこのドラマで、その一言が残念で仕方ない。